映画『フューリー』観てきた

現存する中で唯一実働状態にあるティーガー戦車を実際に撮影に使用したとして、公開前から話題になったブラッド・ピット主演、デヴィッド・エアー監督の映画『フューリー』を観てきたので感想をば。
ネタバレ注意。ただし、ラストシーンのネタバレだけは避けるつもりなので興味はあるけど見に行こうかどうか迷ってる人は参考にしていただきたい。

私はてっきりこの映画、「M4シャーマン戦車で果敢にも格上のティーガー戦車に挑んだ男たちの勇気と絆のストーリー」みたいなヒロイックな熱血物を想像していたのだけれども、いい意味で大いに裏切られた。

この映画、ゲロが出るくらいに濃密に、戦場という場所の非日常性を生々しく描いた戦争映画です。

ストーリーとしては、歴戦の戦車乗り”ウォーダディー”ことドン・コリアーが車長を務めるM4戦車”フューリー号“に、戦闘に参加したこともないにもかかわらず副操縦手として配属された新人ノーマン・エリソンが、前線任務のなかでドン車長及びその配下たちと時に衝突しながら、時に支え合いながら一人前の兵士として染まっていく様を描いている。

 映画が始まって、まず驚かされたのがひっきりなしに続く残虐な描写。
ブチブチと肉を裂きながら淡々と死体を運ぶドーザー、戦車内や各戦闘員の戦闘服にこびりついた凝血や肉片、戦車に踏み潰されるドイツ兵、断末魔の叫びを上げて炎上する戦車からはい出てくる火ダルマのアメリカ兵、『卑怯者』の看板を首から下げて街灯に吊るされたドイツ国民…上げていくとキリがない。
個人的に一番きつかったのは、ぬかるみに放置されて泥だか肉だか判別つかなくなった死体が戦車に踏まれてブクブクいいながら潰れるシーン。もうとにかくショッキングで脳裏にこびりついてしまった。

スプラッター映画のように「どーん!どうだグロいだろ~(どやぁ」ではなく、とにかく淡々と、『戦場』では、これが当たり前なんですよ?と言わんばかりに死体が映る様に圧倒される。この時点ですっかり映画に引き込まれてしまった。

子供をみて「殺せ」、女をみて「犯せ」、死体をみたら「生き返らないように殺せ」、捕虜を前にして「殺されたくなければ殺せ」…そんな異常な環境を受け入れることができず、早々に「もう帰りたい!」「私を殺してください!」と泣きギレするノーマン。うん、その気持ちすっごく分かるわ。

一方で、兵士としていつまでも垢抜けないノーマンを見かねて強引に殺しを経験させたり、女をあてがったり、戦闘後の団欒を演出してみたりと、不器用な親心を見せるドン車長がめちゃくちゃかっこいい。無口でぶっきらぼうの荒くれだけれど、不意に優しい…ブラピってだけでもかっこいいのに、こんなん卑怯だわ。

 そんなこんなでノーマンが少しずつ兵隊として染まって行く中、味方の他のシャーマンを引き連れて次なる任務へ向かうフューリー号のご一行。
とその時、爆音とともにいきなり吹っ飛ばされるシャーマンの砲塔!
「88mm砲だ!」
にわかに浮足出すアメリカ兵士達!

いよいよ満を持してドイツが誇る浪漫兵器、ティーガーことⅥ号戦車のエントリーだ!

もうこのシーンほんとかっこ良くて…。
バカみたいに太い履帯をゴロゴロいわせ、茂みをかき分け姿をあらわすその巨体! 貫禄も迫力も十分、いや十二分…思わず『ドドドドドドドドドドドド』というオノマトペを幻視してしまった。

このシャーマンVSティーガーは素直にカッコ良かった。
必死こいて逃げまわり、ティーガーの背面に回り込もうとするシャーマン。のっしのっしと近づいてくる化物戦車ティーガー、シャーマンの砲撃を正面から受けてびくともしない。一両、また一両と撃破されるシャーマン…。
半狂乱の状態で「後ろだ、後ろへ回り込め!!」と叫び続けるドン車長達のようすから、いかにティーガーが恐れられていたかが伝わってきた。

軍事は詳しくないのであとで調べてわかったんですが、シャーマンだとゼロ距離射撃でもティーガーの正面装甲抜けないんですね……そりゃあの狼狽ぶりも納得だわ。

しかし、このシーンで一番衝撃だったのは、なんとかティーガーの撃破に成功したあと、行動不能になったティーガーから出て来たドイツ兵に向かって「フ◯ッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」と叫びながら鬼の形相で機銃をぶっ放すノーマンだった。そしてドイツ兵を薙ぎ払った後、安心とも憔悴ともとれる様子で「最高の仕事だ…最高の仕事だ……」と自分に言い聞かすようにつぶやき続ける様子がなんとも痛ましく……戦争を知らない身としては、戦場の狂気に触れたような気がして恐ろしかった。

ティーガーの撃破に成功したフューリー号の一行は、たった一両で次の任務地に向かう…といったところで物語はクライマックスに入る。未見の人のため、コレ以上は書かないこととする。

…と思ったけど、一つだけ。作中で度々ノーマンと衝突していた装填手のグレディが、ノーマンを引き連れて任務地の偵察を行うシーン。あそこはこの映画の見どころの一つだと思う。あれだけ盛大に死亡フラグおったてるやつ久々にみたわ。

自分は今まで戦争映画なんてみたことなかったし、思い返してみれば知識として戦争があったことは知っていても、そこでどのような戦闘が行われていたかは考えたこともなかった。映画冒頭で舞台設定が1945年であることが語られると、「何だ、じゃあもう勝利目前じゃん。余裕じゃね?」とか思った自分が素直に恥ずかしいというか、そうだよな、いつ死ぬかわからない前線の兵士からすれば大勢なんか関係ないよな…。そんな自分の目には、戦場の異常性を生々しく写しだしたこの映画はとても新鮮に映った。ほんの70年前に、こんな経験をした人たちがいたんだなぁと思うと、ただただ平和な時代に生まれてきてよかったなぁと思う。

いやーホント平和な時代に生まれてきてよかったわー(つり乙2をインストールしながら

こんなことを書くと
「この映画みただけで戦争語ってんな、せめて〇〇見てからにしろ」
とか
「ちげーよこの映画の〇〇の描写は明らかにフィクションで~」
とか思われる人が結構いるとおもう。
思った方は是非、コメントを投げて寄越して欲しい。
私も、この映画がどこまでリアルなのかとか、ほかの戦争映画とかとても興味がある。

そう、戦争映画に興味を持てた。
自分が知らなかった世界をみせてくれたというだけで、この映画をみた価値があったと思う。私と同じように戦争映画をみたことがない人には、ぜひ鑑賞をオススメしたいと思う。