S-FRが気になる

かつて大流行し、いまでも一部に熱狂的な支持層をもつ小型FRスポーツカー。採算性から近年はめっきり数を減らしているが、東京モーターショーでは支持層へのアピールとして毎回どこかしらのメーカーからコンセプトモデルの出展があるのがお約束だ。

……もっともコンセプト以降、決して量産化へは進まないことまで含めて『お約束』なわけだが。

いよいよ来週末に控えた東京モーターショー2015でも、やはりお約束通り、小型FRスポーツの出展があった。トヨタより出展される「S-FR」だ。

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だがこの「S-FR」、これまで登場した『お約束コンセプトモデル』たちと比較すると、なんか微妙に毛色が違うように見える。

具体的には、ショーモデル特有の「色気」が感じられない。
まるで量産モデルのような現実味を帯びたモデルになっているのだ。

それは、「内装」と「ホイール」に特に顕著に表れている。

まず内装だが、ショーモデルにしては不自然なまでに現実的だ。
普通、ショーモデルの内装と言ったらスイッチ類が全廃されたツルツルのダッシュボードや、見た目重点のモノフォルムシートなど、SF感あふれる(実現味のない)デザインがなされる場合が多い。参考として、東京モーターショー2013でニッサンから出展されたお約束モデル、IDx FREEFLOWの内装を以下に示す。

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実にかっこいいが、実現性は皆無と言っていい。

これに対し、S-FRの内装はびっくりするぐらい現実味がある。ダッシュボードにはエアコンの操作スイッチやハザードなどが我が物顔で並んでいるし、ハンドル奥にはスタータースイッチが見える。シートだってごく普通のバケットタイプだ。チープ感すら覚えるその内装は、決してショーモデルのそれではない。

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次にホイール。小さい。ものすごく小さい。

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ショーモデルのホイールと言ったら20インチオーバーが既に当たり前だ。だというのに、写真を見る限りS-FRのホイールはせいぜい16、17インチといったところ。ましてや、締結ボルトが4穴である。普通車だってスポーツカーなら5穴が当たり前のご時世に、ショーモデルでこれはいくらなんでも色気がなさすぎる。なんか裏を感じずにはいられない。

ここまで書いてきてふと思った。デジャブだ。
「色気がないホイール」…最近、同じような事を思ったイベントがあったような…。

 

そうだ、新型ロードスターだ!

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今年の5月、マツダの新型のNDロードスターが発表されたとき、まったくおんなじことを思ったのだ。

「どうせまた、大きくなるんでしょ…?」といった不安を裏切り、コンパクトな姿で登場した新型ロードスター。とくに驚いたのがそのホイールの小ささで、先代NCロードスターより一回り小さい16×6.5Jインチというサイズ(しかも4穴)を履いて登場した。
営業面での商品力を考えればインチダウンはとても勇気のいる決断だっただろうに、それでも16インチにこだわり、あまつさえ4穴を選択したマツダの判断には感服した。マツダの開発陣は、重いホイールは「Fan to drive」にとって害悪以外の何物でもないことをよく理解してくれているのだ。色気よりも、性能。なんともマツダらしい判断で、本当に自動車が好きな開発陣が作ってくれたのだということを実感した出来事だった。

 

話をS-FRに戻す。なにが言いたいかというと、これロードスターの兄弟車じゃないかということだ。

今年5月、マツダトヨタは協力関係を締結した。その内容は具体的には示されなかったが、よりよいものづくりのために、両者の経営資源を共有して使用すると報じられていた。つまり、トヨタロードスターコンポーネントを使用して、小型FRスポーツカー「S-FR」を作る可能性は十分あるということじゃないのか?

 

そう思って改めてS-FRの写真を見てみると、似てる。なんで今まで気が付かなかったのか不思議なくらい、ロードスターに似てるのだ

まず内装、エアコンルーバーの形がまんまロードスター。シフト、ハンドブレーキの相対的な位置もロードスターのそれに近い。

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次に外装に目を向けると、Aピラーがロードスターにそっくりだ。

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↑S-FRのAピラー

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ロードスターのAピラー


また、サイドから見た場合、フロントアクスルからドア後端までのプロポーション(フロントアクスルに対するAピラーおよびドアの位置関係)がロードスターと重なるのが分かる。逆に、ドア後端からリアアクスルまでの距離はロードスターと比較して長めである。ここで、発表されているS-FRのホイールベースを見てみると2480㎜とされている。ロードスターのそれと比較して170㎜長い。察するに、このドア後端からリアアクスルまでのエリアを延長して、もともと2座オープンのロードスターを2+2クーペに作り変えるつもりなんじゃなかろうか。

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ここまでは、あくまで私の主観で似ている、と言っているだけだ。
ひとによっては似てない、というひともいるだろうし、S-FRがロードスターの兄弟車だというのは想像の域を出るものではない。

しかし、さらに詳しく写真を見ているうちにひとつ、重大なことを発見した。
以下の写真はS-FRの内装の全景を写した写真において、ハンドルの下、つまりドライバーのフットスペースを拡大したものだ。

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…おわかりいただけただろうか?


明るさを調整して、もう一度ご覧いただこう。

 

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オルガン式のアクセルペダルが見える。


確定だ。今現在、わざわざ小径4穴ホイール履いたオルガン式ペダルのFRなんて、世界中探してもロードスターしかいない。そして、そんな偏屈な設計をトヨタが独自に行うとは考えられない。これはもう、断言してもいいだろう。S-FRはロードスターの兄弟車だ。ここにきて、ただの『お約束』のショーモデルだと思っていたS-FRが、にわかに現実味を帯びたモデルに変貌した。これは、モーターショーでのさらなるアナウンスに期待せずにはいられなくなってきた。楽しみが増えて、今からワクワクしている。


スバルと協力して86を作り上げたトヨタが、今度はマツダと協力してS-FRを作る。自動車ファンとしてはなんとも胸の躍る話じゃないか。最近の車はつまらないといわれるようになって久しいこのごろ、世界のトップメーカーたるトヨタがまたスポーツカーを出してくれるのなら、それがカンフル剤になるかもしれない。また、昔のようにたくさんのスポーツカーが作られるになるかもしれない。

そんな妄想をしながら、モーターショーを、待つ。